悠遠なる絆

好不容易看完全部才发现,啥都没讲!!

来源

「兄上──」
 窺うように府庫内の管理室を覗き込んだが、その主にして、敬愛する兄の姿はなかった。誰も見る者はいないが、傍目にも判るほどに肩を落とし、紅黎深《こうれいしん》を返す。
窺う うかがう  傍目  はため  判る わかる  踵  かかと

 ──と、いつの間にか、背後に人が立っていたことに気付く。気配も感じさせずに、いきなり後ろを取られるようなことを、常の黎深ならば、許しはしない。『させない』ではなく、『許さない』わけだが、数少ない例外もいる。
背後  はいご  気配  けはい   行き成り  突然;冷不防;马上就
  許し  ゆるし


 一瞬で、秀麗な面を破顔させる黎深を見れば、その相手が数少ない例外であると判る。


「あ、兄う──」
「これは紅官吏。何か御用ですか」
御用 ごよう  事情;公事;公务;惠顾;赐顾;拘捕;逮捕
 恐ろしく他人行儀な言葉に、いつものこととはいえ、大打撃を受ける。
恐ろしく 非常的;
行儀   ぎょうぎ
とは言え 虽然那么说,尽管那样

「……勘弁して下さい。兄上」
勘弁  かんべん  宽恕;容忍
 いつもなら、泣いて、縋りつかんばかりになるのに、今日は少々、様子が違った。情けないほどに肩を落としている弟の姿に、紅邵可《こうしょうか》は苦笑した。
(動詞の連体形又は助動詞「ぬ(ん)」を受けて)ある動作が今にも行われようとする状態を表す。
いつでも出発できるばかりになっている
泣き出さんばかりの顔

情けない: 惨めである。見るに忍びない。 凄惨的,让人不忍见的
「まぁ、入りなさい、黎深。お茶でも淹れてあげよう」
 邵可の出すお茶は、味覚まともな者なら、聞いただけで、裸足で逃げ出す苦さであると云う噂の代物で、平然と何杯でも飲めるのは弟である黎深くらいだった。尤も、黎深の場合は味覚云々ではなく、いわば『愛』の問題だったが。
味覚  みかく 
真面  まとめ  适当的
裸足  はだし
代物  しろもの  东西,家伙,东西
平然  へいぜん  沉着;冷静;坦然;不在乎
尤も  もっとも
云々  うんぬん

 湯飲みとお茶菓子を弟の前に揃えてやりながら、
「で、鳳珠殿と喧嘩でもしたのかい」
「……何で、鳳珠の名前が出てくるんですか」
「だって、それ──」
 チョンと軽くつついた黎深の左頬が幾らか赤くなっている。殴られたというほどではない。恐らく平手で叩かれたのだろうと当たりをつける。
叩く  はたく
 この傲岸不遜な弟と真っ向からぶつかって、手まで出せる相手となると、指の二、三本で済む。その中で、真先浮かぶのが黄鳳珠《こうほうじゅ》だった。
傲岸不遜  ごうがん・ふそん
真っ向    まっこう
ぶつかる   碰,撞,(偶然)遇上,碰上
真っ先    まっさき
浮かぶ    うかぶ

 いつもなら、笑顔全開になる兄の前だというのに、全くニコリともせずに、ブスッとしたまま、茶を啜っている。見上げた根性で、超絶苦い茶にも一つ動かさない。
啜る  すする
根性  こんじょう  脾气
眉    まゆ
ブスッ  =仏頂面・ぶっちょうづら  板着脸
 邵可は首を傾げた顔を合わせれば、しょっちゅう喧嘩しているような二人だが、それだけに反応も解りやすい。大体、鳳珠の悪口ぶちまけて、兄に宥められ──それでも、普段は疎遠装う兄と話ができたことに満足し、ケロッとして帰る。
傾げる  かしげる
顔を合わせる 使...会面
しょっちゅう   经常,总是,老是
解る       わかる
悪口       わるぐち
ぶちまける   倾倒一空,倾吐一空,完全说出,和盘托出
宥める     安抚;平息;劝解;调解
疎遠       そえん
装う       よそおう
けろっと    何事もなかったように平然としているさま。けろりと。 若无其事地;当什么事情也没有 

 それで終わりのはずなのだが……。
〈鳳珠殿じゃ、なかったのかな
 他にも取っ組合いの喧嘩をするような相手もいないではないが、この態度は今までにない。今まで、喧嘩したことのない相手……だろうか?
取っ組合い  扭打
 となると思い当たるのは一人だけ──……。とはいえ、相当に意外な相手ではあるが。
となると     这么说来
思い当たる   おもいあたる   想像到;猜测到;觉得有道理

「もしかして………、まさかー、悠舜殿?」
 恐る恐るといった風に尋ねる兄に、黎深は沈黙応えた。いや、渋茶を一気に飲み干した★
~という風に   ~というふうに ~ように
恐る恐る おそるおそる  提心吊胆;战战兢兢
沈黙    ちんもく
応える   こたえる
渋茶    しぶちゃ


 邵可は盛大溜息をつき、
「……黎深、何やったんだい」
盛大   せいだい
溜息   ためいき

いきなり、それですかっっ!!」
いきなり  突然,冷不防,马上就,立刻
 ガンッと湯飲みを卓に叩きつける弟に、中味がなくなってて、良かったと心底、思う。
ガンッ  象声词
中味   内容;容纳的东西;刀身
心底   しんてい  内心,心底,心眼儿,衷心

「本当に、悠舜殿なんだ」
 正しく確かに、悠舜に張り飛ばされたのだ。いわば、自分は被害者ではないか。なのに、何故まるで責められるように詰問(当人の意識上に於いては)されなければならないのかっ。酷いっ、あんまりではないかっっ。
言わば  说起来
何故   なぜ 
丸で   完全,简直,全然(同全く);宛如;仿佛
詰問   きつもん
酷い   ひどい 太过分了
あんまり 太,过于,过分,过火


 ──などと、目まぐるしく高速回転する黎深の頭脳は、とことん自己中な被害妄想街道驀進中。はっきりいって、十二分に明敏脳ミソの使い方を間違っている。
目まぐるしい  物の動きや変化が、一つ一つ追って行くことができないほど早い。 とても激しく 
頭脳    ずのう
とことん  最后,到底
妄想    もうそう
街道    かいどう
驀進    ばくしん
明敏    めいびん
脳みそ   脑子,智力,智慧

 ところが、悲しいまでに現実的な兄は冷静に一刀両断する。
一刀両断  いっとうりょうだん
だって、そうでもなきゃ、あの悠舜殿が手を上げるなんてこと、考えられないもの
そうでもなきゃ  そうでもなければ
手を上げる    挥拳相向
 最愛の兄にして、弟の信用はその友人よりも低いと判明。零なら、まだしも負まで暴落しそうな勢いである。
まだしも  还算可以;还说得过去
負      ふ
暴落    ぼうらく
勢い    いきおい

 ドンヨリ沈み込む弟に、邵可は茶菓子を摘みながら、あっさりと続ける。
どんより  阴沉沉,浑浊,不明亮
沈み込む  しずみこむ
摘む    つむ
あっさり  简单、轻松

「何があったかは知らないけど、素直に謝ったら?」
素直  すなお
「私は悪いことはしていませんっ。またぞろ、悠舜に下らない嫌がらせをする阿呆どもに、相応報いをくれてやっただけです! なのに、何で──」
またぞろ  又
下る     くだる     投降
嫌がらせ  いやがらせ  故意使人不痛快或讨厌(的言行)
阿呆     あほう
相応     そうおう
報い     むくい

 捲くし立てた黎深は、だが、次にはを噛みしめた。
捲く  喘不上气
唇   くちびる


「……何で、あいつが怒るんですか」
あいつ  他,她,那个家伙,那小子

 いつもは穏やか微笑んでいる悠舜の、あんなにも厳しく、そして、悲しげな表情《かお》は見たことがなかった。
穏やか  おだやか
微笑    びしょう
悲しげ   かなしげ   悲哀;悲伤

 の湯飲みにお茶を注いでやりながら、傲岸不遜自己中人間──しかし、どこまでも不器用でもある弟に嘆息する。
空      から
注ぐ     そそぐ
傲岸不遜  ごうがんふそん
不器用   ふきよう 
嘆息     たんそく

〈そんなに落ち込むくらいなら、とっとと謝ればいいのに〉
落ち込む  掉进;跌落;塌陷;落到手中
とっとと   赶快

 とはいえ、素直さを母親の胎内の置き忘れてきた弟である。それができないから、珍しくも落ち込んでいるのだろうが。
胎内 たいない
 入朝するまでは黎深が気にかけ、喜怒哀楽を露にするのは兄である自分絡みのことでしかなかった。黎深にとって、世界は『自分』と『兄』と『その家族』と、他はペンペン草程度の区分でしかなかったのだ。
絡み  がらみ  包括在内;接近;上下
 だが、今は少しだけ世界が広がっている。僅か数人ではあるが、初めての『友人』と呼べる存在を確かに、弟は得たのだ。
僅か  わずか
 彩雲国に於ける朝廷の人材徴用制に、国試がある。これは貴族のみならず、広く国民全体からも人材を集めるために執り行われる
於ける  おける
徴用   ちょうよう
執り行う とりおこなう

 名前の上がった黄鳳珠、鄭悠舜《ていゆうしゅん》は紅黎深とは同じ年に国試を受け、及第した同期である。三魁──上位三位までの及第者──だった彼らは正式な部署定まるまでの進士の頃、通常の吏部試を受けずに朝廷預かりとなり、共に仕事をする機会《こと》も多かった。
及第  きゅうだい
三魁  さん・さきがけ
部署  ぶしょ
定まる さだまる
進士  しんし
預かり あずかり

 そうでなくても、その年の国試はトアル事情から荒れに荒れて、落第続出。国試史上最低の及第者数だったものだ。
とある  某一个
荒れ   あれ  风暴;暴风雨;风波;龟裂
落第   らくだい
続出   ぞくしゅつ

 因に誰が言い出したものか、その及第者達は『悪夢の国試組』などと呼ばれている。『悪夢』の修飾先が『国試』なのか、『国試組』なのかは──語る人によるとのことだ。
因みに  ちなみに
修飾   しゅうしょく

 それはともかくさえいれば、他はどうでもいいという姿勢貫く黎深が、別に同期だからとか、単に優秀だからという程度で、ペンペン草を意識したり、認めたりするはずもない。
ともかく  回头再说,姑且不论,暂且不谈,无论如何
姿勢    しせい
貫く    つらぬく
単に   たんに

 だが、進士時代の僅か数ヶ月間に、そんな弟が『他人』を懐近くまで入れたことには──望んでいながらも、願っていながらも、実は諦めてもいたので、かなり驚いたものだった。

  そればかりか、喧嘩した上に怒られたからと、こんなにも落ち込む姿など、誰に想像できただろうか。何しろ、黎深は冗談でも比喩でもなく、周囲にとんと関心がない。己の言動が他人にすれば、どれほどに傲慢で、許しがたいものであるかが解らない。それが他人を怒らせようと、喚かれようと、まるで動じない。
何しろ  なにしろ  不论怎么说;不管怎样;因为;由于
比喩   ひゆ
とんと  =まったく 完全,一点也,一直
言動   げんどう
喚く    わめく   叫;喊;嚷
動詞連用形+難い ~がたい 其の動作の実現が困難で有ることを表す。 =~しにくい
  

 黎深の認識は余りに余人とは異なりすぎていた。誰にもそんな黎深を理解などできない。
余りに   あまりにも  太;过于
余人    よじん
異なる   ことなる

 弟として生を享けた時から、見守ってきた邵可でさえ、完全に理解しているわけではなかった。それでも、この兄の存在が余りにも高みにありすぎる──稀有なる天才を、只人近くまで引き寄せているのだ。
享ける     うける  
高み      高处
稀有なる   けうなる
只人      ただびと  普通人
引き寄せる  ひきよせる  拉到近旁

〈そういえば、私も叱ることはあっても、怒ったことはなかったな〉
 我儘な弟だが、兄には従順だった。それでも、時には常軌逸し、心配した邵可は諭すように叱ったものだ。大抵はそれで納得してくれたので、怒りに任せて、怒った覚えは──況してや、手を上げたことなぞ一度もなかったわけだ。
我儘     わがまま  任性;恣意
従順     じゅうじゅん
常軌     じょうき
逸する    いっする
諭す     さとす  晓谕;说明
怒り     いかり・おこり
況してや  ましてや  更不用说
謎      なぞ    暗示;示意;神秘;诡秘


 当然、それは黎深の方も同様だ。兄以外は、それが父親でさえも、従うに値しないと見ていた。幼い頃から、孤絶した瞳をした黎深を諌められる者は邵可以外にはいなかった。
従う    したがう
値する  值;价值相当于...;值得;有...价值
幼い   おさない
孤絶   こぜつ
諌める  いさめる


〈うわっ…。今更に、気付いたけど、もしかしなくても殴り合いの喧嘩したのなんて、入朝してから……初めて?〉
今更     いまさら 
殴り合い   なぐりあい
入朝     にゅうちょう
もしかしなくても   不会有万一,肯定,想都不用想

 二〇歳そこそこでの初体験……ただし、衝突;;; 何にせよ勝手が違うのも解る気はする。案外と楽しんでいる可能性もあるが。
そこそこ    大约;左右
初体験     はつたいけん
拳        こぶし
衝突      しょうとつ
何にせよ    なんにせよ = 何しろ
勝手      情况 
勝手が違う  情况与预想不同;不顺手.
案外      あんがい 意想不到

 ただ、今回ばかりは楽しんでもいられないだろう。
〈しかし、悠舜殿が怒るっていうのは全然、想像つかないな〉
 鄭悠舜は非常に理知的理性的な人物だ。
理知的   りちてき
理性的   りせいてき

 黎深と鳳珠がやたらと衝突するため、その仲裁役回る方が多い。二人より、幾らか年上でもあるので、自然と抑え役を引き受けている。勿論、穏和な性格もあるだろう。懇々と二人を説教したり、叱ったりしている。
仲裁       ちゅうさい
回る       まわる
抑え       おさえ  按压;镇守;统治;殿军
引き受ける   承担;负责;保证;对付;应付;照顾;照料;继承
穏和       おんわ
懇々       こんこん 恳切;谆谆
説教       せっきょう


 そして、不思議なことに、誰に何を言われようと馬耳東風な黎深が、悠舜の説教には一応耳を傾けるのだ。(兄である邵可の言葉にはほぼ無条件で従ってしまう)
馬耳東風  ばじとうふう   耳边风
一応     いちおう
傾ける    かたむける
略      ほぼ       大略;大体上

 尤も、完全に聞き入れることは殆どない。その場では納得した様子でも、少し経つと、忘れてしまうのか抑えが効かなくなるのか──似たようなことを繰り返したりもする。
殆ど   ほとんど
尤も   もっとも  话虽如此

 黄鳳珠の方も十分に冷静沈着なはずだが、黎深を前にすると、何やら土手が決壊するように熱くなるのだ。逆にいえば、鳳珠が黎深以外と激しい衝突をすることはない。これはもう相性の問題だろう。
決壊      けっかい
激しい     はげしい
相性      あいしょう


〈でも、妙だな。今まで、散々黎深のお節介で、とばっちりを受けても、そのことで悠舜殿が腹を立てたことなんて、なかったはずだけど〉
散々     さんざん = ひどく  狠狠地;彻底地;
節介     管闲事,多嘴多舌
とばっちり  连累,牵连

 黎深は悠舜を庇っているつもりらしいが、普段、他人への気遣いには、とんと無頓着な弟のことだ。慣れない気遣いが空回りして、どちらかというと、悠舜への被害を拡大しているとしか思えないこともままある。
庇う     かばう
気遣い   きづかい  担心;挂虑
無頓着   むとんじゃく  不经心;不在乎
空回り   からまわり  空转;空谈;空忙

 ただ、黎深の為人《ひととなり》を承知の上でか、事態が悪化しようと、悠舜が黎深を責めることは決して、なかった。
為人   ひととなり
責める  せめる


 それが今回に限り、怒ったという。それも、手を上げるほどに……。
〈何だかなぁ。どうも話が食い違っているような〉
 ともかく、考えていても、進展のしようがない。多分に主観的になること疑いないが、一応、黎深に説明を求める。
「黎深、愚痴でも何でも聞いてあげるから、話してみないか」
愚痴   ぐち  埋怨;无知;牢骚;抱怨
 兄の勧めに、暫し躊躇いを見せたが、やがて黎深は重い口を開いた。
暫し   しばし
躊躇い ためらい 


把看小说变成一种学习真是罪过!