トキについて見聞きするたびに、朱鷺つづる字の美しさと、ニッポニア・ニッポンと呼ぶ学名おおらかさを思う。最後の生息地で知られた佐渡風物相まって、その立ち姿、飛ぶ姿の残像は、そこはかとない郷愁を胸に誘う
見聞き        みきき
綴る         つづる  書き表す
ニッポニア・ニッポン   Nipponia nippon
学名         がくめい
大らか       おおらか   落落大方
生息地       せいそくち
佐渡        さど
風物        ふうぶつ
相俟って      あいまって  いくつかの要素が重なり合って。互いに作用し合って。一緒になって。
立ち姿       たちすがた 立っている姿; 舞いをする姿。
残像        ざんぞう
そこはかとない  说不出的、难以言述的
郷愁        きょうしゅう


▼古くは日本書紀に「桃花鳥」の名で登場する。だが、その薄桃色の美しい羽が災いした乱獲されて明治以降みるみる減った。開発にも追われた。保護の声が高まったときはすでに遅く、日本のトキは5年前に絶滅した
桃花鳥   とき
薄桃色   うすももいろ
災いする  わざわいする  それが原因となって悪い結果を招く。
乱獲    らんかく
見る見る  みるみる     眼看着;急剧地
絶滅    ぜつめつ


▼その佐渡の空へ、きのうトキが放たれた。中国生まれの親から人工繁殖で増やされたうちの10羽である。日本のトキは81年、保護のためにすべて捕獲されたから、飛翔する姿は27年ぶりになる
人工繁殖   じんこうはんしょく
捕獲      ほかく
飛翔      ひしょう


▼〈今日からは日本の雁ぞ楽に寝よ〉。一茶の句の雁をトキに置き換えてやりたいが、生きる環境は前より厳しいと聞く。は減り、山間部にも道路が延びた。雪深い冬も来る。無事に生き延びられるかどうか専門家にも分からないそうだ
雁       かり
一茶     いっさ
置き換える おきかえる
田       た
山間部    さんかんぶ
生き延びる いきのびる


▼日本のトキは1960年、世界で13種目の国際保護鳥に指定された。尽力した一人が、「日本野鳥の会」をつくった僧侶で作家の中西悟堂だった。鳥を守ることは日本の山河を守ることだと説き、「野の鳥は野に」の自然観を唱えた人だ
保護鳥     ほごちょう
尽力      じんりょく
野鳥      やちょう
僧侶      そうりょ
中西悟堂   なかにし・ごどう
山河      さんが
説く       とく
唱える     となえる


▼だが悲運にも国産は死に絶え、放たれた籠育ちは「野の鳥」に戻れるかどうか案じられている。人間が山河を守ってこなかったツケなのかもしれない。唯一の武器は「臆病なこと」という優しい鳥だという。佐渡の四季の風物に再びなる日が、いつか来ればいい。
悲運     ひうん
放つ     はなつ
籠育ち    かごそだち
案ずる    あんずる   心配する
臆病     おくびょう