天声人语(2008-09-24)

▼あまり話題にはならなかったようだが、去る13日は、とある猫が死んで100年の命日だった。ははん、とひらめく方もおられよう。あの有名な、名前のない、漱石の猫である
とある 某一个
閃く   ひらめく


▼『吾輩は猫である』はむろん小説だが、モデルになった猫は実際にいた。朝、物置かまどの上で冷たくなっていたそうだ。漱石はを庭に埋め、白木墓標に〈の下に稲妻起る宵あらん〉と、追悼一句したためている
無論  むろん  当然
物置  ものおき 杂物间
竈   かまど   灶台
骸   むくろ
白木  しらき
墓標  ぼひょう

此   こ
稲妻  いなずま
追悼  ついとう
一句  いっく
認める したためる  ①書き記す ②食事をする


▼明治ののころ、猫や犬がどれだけ飼われていたかは知らない。いまや空前のブームで、全国で実に2千万匹以上ともいう。ペットの売買やフードなど関連市場は1兆円を超すそうだから、堂々たる産業である
末      すえ
どれだけ  ①どのくらい ② どんなに多く
売買    ばいばい
たる     資格を表す


▼命多ければ死も多く、ペット葬祭業も増えているらしい。漱石は出入り車屋始末を頼んだ。1世紀の後、葬儀納骨から喪失感のケアまで手がける所も登場した。人がペットを擬人化し、パートナーの関係を深めている証しでもある
出入り  でいり   出入;金钱出入等
車屋   くるまや
始末   しまつ
葬儀   そうぎ
納骨   のうこつ
喪失感  そうしつかん
手がける てがける   亲自处理;亲自照顾
登場    とうじょう
擬人化  ぎじんか
深める  ふかめる
証し    あかし



▼その擬人化の、漱石は元祖である。猫好きに思われるが、そうでもなかったようだ。猫の吾輩は作中、「いかに珍重されなかったかは、今日に至るまで名前さえつけてくれないのでも分る」とぼやく。本物の猫も一生を名無しで終えた。付かず離れずが漱石流だったのだろう
元祖   がんそ
作中   さくちゅう  作品中
いかに  どのように;どれほど
珍重   ちんちょう
至る   いたる
名無し  ななし
ぼやく  发牢骚

当節はブームの一方で、腕時計を外すようにペットを捨てる人もいる。多くの猫や犬がガス室に送られるのを思えば、人間の身勝手さは同類として恥ずかしい。折しも動物愛護週間。名無しの猫が起こす稲妻と、怒りの声を、の下から聞くようにも思う。
当節    とうせつ   この時節。このごろ。当今。現今。
外す    はずす    身につけていたものをとる。
身勝手  みがって   自私。他人のことを考えず、自分の都合や利益だけを考えて行動すること。
折りしも  おりしも   ちょうどその時。
土     つち
怒り    いかり